仕事に関係ない話ばかりの小さな出版社の社長面接
入社試験の面接で今も鮮明に覚えているのは、小さな出版社の社長面接のことです。
社員数もそれほど多くなく、しかも出版社とあって自負や個性の強い人が集まっている会社ですから、そこにうまくなじめる人柄か見定めるのが目的のようでした。
履歴書に華道の免許「皆伝」と記入
私は履歴書の資格欄に、華道の免許「皆伝」を記入していました。
運転免許がないので、華道のようなおよそ実務的でない資格でも書かないと空欄になってしまうのです。
ただこの資格、知らない人には「すごい」と思われがちですが、実際は高校三年間の部活で取得できた簡単なもので、あまり掘り下げられると「なあんだ」と落胆されかねない諸刃の剣でもありました。
そして、個性の強い出版社社長が華道免許皆伝なんて目先の変わったものを見逃すはずはなかったのです。
「免許皆伝っていうのは、すごいんだね?」
「いえ、実は高校の部活を三年間まじめにしていれば頂けるもので、いちばん難しいお免状というわけではありません」
「じゃ僕も三年やったらもらえるの?」
「さ、さあ……それは……私の母校でのしきたりでしたので、一般的にどうなのかはすみませんわかりません」
確かに志望動機やその他まじめな質疑応答は前段階の面接でひと通り済んでいたのですが、まさか社長と華道の話しかしないとは思いませんでしたから、これはもう私に興味がないから世間話だけして帰そうと判断されたんだな、とションボリして帰路につきました。
合格したのはむしろ予想外でした
ただ、いざ入社してみると、私以外にも「社長面接でカノジョが何人いるか訊かれた」など、全く仕事と関係なさそうな話をして合格した人がざらにいました。
おそらく社長は、仕事の能力・ポテンシャルの見極めは前段階に完全に任せ、自身は人柄だけをじっくり見ていらしたのだと思います。
ちなみにカノジョの人数を訊かれたという先輩社員は、複数と答えたほうがスケールが大きいと思われるのだろうかと迷いつつも正直に一人と答えたそうです。
この会社では、気に入られるために嘘をついたり、わからないことを適当につくろったりしない人が採用されるのかもしれません。
今は退職してしまった会社ですが、在職中に同僚・上司のいい加減な発言で振り回されなかったことはありがたく思っています。