忘れられない有名な学習塾の事務員募集の面接
数年前、当時大学を辞めこれと言って目標がなかった僕は、就職情報誌でバイトを探していました。
そこで《自分の資格が活かせてなお且つ仕事が午後からで、おまけに時給もかなり高め》といった、夢のような求人と出会うのです。
その求人は地元ではかなり有名な学習塾の事務員募集でした。
さっそく電話すると、「明後日面接をするので履歴書を持って来い」とのこと。
僕は二つ返事で面接を受けることにしました。
自分の考えの甘さ
面接当日、僕は自分の考えの甘さを思い知ります。
僕以外の面接を受けに来た人たちは20代から30代前半の女性が7人、しかもみんなビシッとリクルートスーツで決めてきているではありませんか。
一方の僕はジーパンにTシャツというみっともない姿。
当たり前ですが条件のいい求人は倍率が高いのです。「バイトの面接だから普段着でいいや」そんな甘い考えでこの場にいることを僕は恥ました。
適性テストでエクセルとワードの試験
その後面接が始まると思いきや、適性テストと題したエクセルとワードの試験をすることに。
いきなりパソコンの前に座らされた僕は激しく動揺しましたが、他の人たちは冷静そのもの。
僕が無知なだけで事務員の面接に適性試験があるのは常識なのでしょうか?
大学のパソコンの授業でパソコンの心得はあるものの、かなり専門的な試験に僕はお手上げ状態。
一方他の人たちは涼しい顔で文章やグラフ、表を完成させてゆくのでした。
この時点で僕は自分の不採用を確信しました。
面接
僕は2番目だったので面接室の前に用意されていた椅子に座って待っていたのですが、面接官の声が大きく内容がダダ洩れでした。
ドア越しに洩れてくる聞くに堪えない酷い面接内容に、僕は言葉を失いました。
30代前半と思われる面接を受けている女性に対して「新婚ならば、仕事なんてせずに子作りに励むべき」そんなセクハラ紛いの言葉を面接の場で浴びせているのです。
案の定、その女性は面接室から出てきた時、涙目でした。
この状況に驚きを通り越して怒りすら覚えた僕はある決心をします。
「先ほどの適性試験でどうせ不採用が決まっているし、一言物申してやる!」そんな決意を胸に面接に臨みました。
しかし、面接官の圧倒的な威圧感を前にさっきまでの決意は揺らぎ、終始へらへらしながら面接を受けたのでした。
何とか無事面接を切り抜けた僕は、「これで面接は終わった」と安堵していました。
しかし面接はまだ続いていたのです。
2日後に学習塾から電話
2日後、不採用を確信していた僕が次の仕事を探していると、その学習塾から電話が。「駅前の居酒屋にいるから今スグ来い」というのです。
何事かと思って行ってみると、そこにはあの面接官が。
なんでも彼こそが学習塾の社長だったのです。
「お前面白いから気に入ったわ。講師をやれ。」
居酒屋で採用試験
戸惑っている僕に有無を言わさず採用試験の問題を渡す社長。
社長たちがお酒を飲んでバカ騒ぎしている傍らで、僕は採用試験を受ける羽目に。
傍から見たらかなり異様な光景だったでしょう。
結果は合格。
僕は晴れてその学習塾で講師兼事務員として働くことになったのでした。
結局あの日面接を受けたメンバーで採用されたのは僕だけだったのです。
しかし、根性無しの僕には塾講師はあまりに荷が重い仕事で、しばらくして辞めてしまいました。
あの時何故社長が僕を採用したかは、未だに謎のままです。